心の書庫

主に本を通じて書いてゆく 書庫代わり 自分へのヒント

森田正馬 心理から見た人間の種々相

1 心理から見た人間の種々相
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このように、自信と内省とが調和をたもっているのが正常な状態であって、その調和が失われた
ときに、いろいろな変態が生ずる
のである。もし自信ばかりつよくて内省が足りないときには、生活も行動も向う見ずとなり、失敗の危険が多い。あるいは生活が放慢に流れ、向上への努力を嫌う
ようになる。また、馬鹿は自分には相当の知恵があると信じ、泥棒も自分の行為を正当化する主張をもち、精神病者は自分の精神が健全であると信じている
。みな、内省の欠乏から生ずるのである。
それと反対に、われわれが自己内省だけに支配されるときには、劣等感にとらわれ、空想にほん
ろうされ
自分が本来もっている才能や力量を窒息させ、活動力を失ってしまうようになる。たと
えば、神経質症状や強迫観念にかかっている人は、自分の症状や苦痛にばかり執着し、メランコリ
(抑鬱症)になっている人は悲観的な気分に支配されてすべてを絶望的に考えるなど、現実から
遊離し、自分を失ってしまうのである。
このように、われわれは自信によっても、また自己内省によっても、自分の正しい姿を知ること
はできない。それが、自分で自分の変態心理を知ることのむずかしい理由である。 それは、われわ
れが自分の顔を見ることができず、自分の頭の重さを知ることができないようなものである。
それでは、自分を正しく知るには、どうすればよいか。それには自分を主観的でなく、客観的に
観察しなければならない。それは、鏡によって自分の顔を見、人の頭の重さをはかって自分の頭の
重さがわかるようなものである。 自分を正しく知るには、 人を観察し、人間を研究することが必要
なのである。