心の書庫

主に本を通じて書いてゆく 書庫代わり 自分へのヒント

自分の悪を自覚することによって、はじめてほんとうの善人になる 森田正馬

(承前)私が日記に、
「私は自分の偏屈で、気が弱く、交際下手な性質を直そうと長年努力してきたが、すべて失敗に終って絶望に沈んだ」と書いたら、次のように批評された。


われわれの性質は生れつきであって、どうすることもできない。それは仏教で言うところの業である。君の場合、自分は本来偏屈な人間である。気の弱い人間である、と観念するほかはない。それはちょっと聞くと消極的なあきらめのようであるが、じつはけっしてそうでない。われわれには、
やむにやまれぬ向上心というものがある。少しでも進歩し、発展したいのがわれわれの本来の欲望である。わしはそれを〈生の欲望>と名づけている。だから、われわれは、自分が偏屈な人間であ
ると自覚したとき、いたずらに自分の考えに執着することをつつしむようになり、また自分は気の弱い人間であると自覚したとき、必要に応じて捨て身の勇気が生れてくるものなのだ。わしは、昔
から自分は頭が悪いと思っている。だから、人におくれないためにいつも勉強せずにはいられない
のだ。 親鸞上人は、自分は悪人であると自覚された。自らの悪を自覚するとき、一切のはからいを捨てて弥陀にまかせる心を生じ、また人の悪を責めることができなくなる。つまり、自分の悪を自覚することによって、はじめてほんとうの善人になるのだ。