心の書庫

主に本を通じて書いてゆく 書庫代わり 自分へのヒント

真逆のことを考えるのは異常ではない 森田正馬

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、「私の心理はすべて変態で、普通の人とは逆である。だから、自分の思っていること
と反対のことをすれば、かえって世間と調子が合う」と言っている。これも、べつに変態というほ
どのことではない
。われわれの生活には表と裏があって、それを適当に調節してやっているもので
ある。あいつはいやな奴だ、と思っても、現実にその人と会えば笑顔であいさつをするのが普通で
ある。
またある人は、「愛児と散歩してガケのふちなどを歩くとき、愛児をつき落して、もがくありさ
まをながめてやろうという心がおこる….……..」と言っている。もちろん、そんな心がおこるだけで、
実行にうつすようなことはない。こんな考えをおこしてはたいへんだ、と恐怖し、なくそうとすれ
ば強迫観念にもなるけれども、そのままに見過ごせば常態である。われわれの心には、いわゆる拮
抗作用というものがあって、自分の子供を危険から保護しようという気持ちがおこると、それにた
いして反対の衝動がおこり、子供が健康なのをよろこべば、急病になったらどうしようという反対
の気持ちがおこるのである。その一方の気持ちがつよいほど、拮抗作用もつよく現れるのである

それは誰にもある「心の対抗」にすぎないから、それを恐れたり、執着したりすることがなければ
何でもない。それは、いなづまのように心をかすめるだけで、けっして行動に現れるようなことは
ない。ある学者はそれを第二人格とか、潜在意識とかもったいをつけて説明し、また宗教家はそれ
を悪魔のささやきなどと言い、あたかも本来の自分とは別個のもののように思っているけれども、
じつは心の拮抗という一つの作用にすぎないのである。「人が右といえば左といいたい気持ち」もある。