心の書庫

主に本を通じて書いてゆく 書庫代わり 自分へのヒント

被害妄想と神経質の違い 森田正馬

1 心理から見た人間の種々相

反対に、盗人は自分でもその行為が悪であり罪であることを表向きには十分認めているけれども、
その裏には都合のよい自己弁護の心がひかえていて、社会の罪や親の教育が悪かったせいなどに転
嫁しようとする。だから盗人は、人からただ盗人として扱われるだけで、その心根を思いやっても
らえないとなると、当然憤慨するようにできているのである。
神経質の人は、人から異常な性格や不良な精神傾向などの話を聞かされると、一々自分のことを
言われたように感じる。
ヒステリーや意志薄弱者のような人たちは、異常性格や不良な傾向などを
面と向かってからかわれたり言ってきかされても、それは自分のことではないように思っている。
自己内省の多いのと足りないのとからおこる相違である。
すべて自己内省の乏しい人には、他人の欠点ばかり見えて、他人はみな自分よりも悪く思われる狂人は他の狂人を笑い、だらしのない者は人の不整頓が気にかかるのである。それは思うに、他人の不潔は不快であっても、自分の糞のにおいは気にならないのと同じことであろう。
さて、フロイトならこれをどう説明するだろう。潜在意識の願望とか難しい説明をするかも知れ
ないが、私はただそうした事実を認め、私の本に書いてある「思想の矛盾」という事実で説明した
いと思っている。