心の書庫

主に本を通じて書いてゆく 書庫代わり 自分へのヒント

心の置き所を間違えない 


また患者の訴える苦悩そのものに対しては、これはもともと最初に心のおきどころを誤ったために、ますますその苦悶を増長せしめたものであって、これをもとのありのままの自然にかえせば、苦悩は
たちまち消散する
のである。

 

自然というのは人生の実際の事実であって、ただ人生をあるがままに見、人生は人も自分もともに苦痛であると覚悟して、苦しさを苦しみ、 恐ろしさを恐れ、喜びを喜べばよい。

 

釈迦が大悟したのも、人生を安楽として安心したのではない。人生のもっとも悲観的な姿である、「諸行無常、生者必滅」ということを覚悟して、はじめてそこに安心立命を得たのである。
参同契に、「四大の性、おのずから復す、子のその母を得るがごとし、火は熱し、風は動揺し、水は冷にして地は堅固なり」ということがある。人は火を涼しく感じ、水を温かく思いたいというとき
に、そこに迷妄が生ずるのである。人は自然に帰れば、冬は寒く、病気は恐ろしく、不潔はいやで、人に対しては羞恥を感ずべきである。 人情の本に帰れば、そこに強迫観念のあるはずはない。

 

強迫観念は冬は暖かく、夏を冷たく感じようとする欲望が強過ぎて、欲ばることからくる。

 

たとえば赤面恐怖者は常人以上に、大衆の前でもおめず憶せず、大胆になろうとする身分不相応の欲望からおこるようなものである。

「生き甲斐がない」などと、よく神経質の患者は不平をいうが、これは生存の欲
望があまりに過大だからである。疾病恐怖や細菌恐怖の苦悩のあまり、むしろひと思いに死にたいなどというのは、死の恐怖から起こる思想の矛盾であり、あるいは棄てばちの駄々っ子である。 真に死の覚悟をしたときには、恐怖はたちまちにして消散するのである。 森田正馬 引用おわり

 

感想

 

感想を加える必要がないくらいに重要なエッセンスが書いてある。

何度も書いているが、人の素直な苦しみに味付けやごまかしは必要はない、という森田正馬の主張がある。

治療的にそれが意味があるのか、という話ではあるが、Vフランクルにせよ、森田正馬にせよ、そうやって不安や恐怖に直面させる、という臨床効果はかなり高いようである。

 

というより、そもそも神経症が、「癌でないのに、癌ではないか」と心配になる意識の過ちなわけで、最初から病気ではないのだから、森田正馬は、健康者のように振る舞え、という。

 

現代では、認知行動療法や曝露療法と呼ばれて、オカルトなわけではなく、れっきとした心理学の治療法である。しかし、森田正馬は、薬には否定的だ。フランクルは必要なら与えるという。

 

まあ、医学的に必要なら、抗不安のトランキライザーを用いるのも、場合により、ありだ。

 

よく、森田正馬は、宗教だ、と否定されるが、たしかに仏教や禅に近い。しかし、それが人を悪くする「思想」では、けしてない。むしろ、森田は、そういう、妄想や理想や思想を、捨て、感情に直面せよ、と言っているわけだから。

 

さて、私の経験上、「病気のふり」ら「病気の気にしすぎ」をして、「病気ではないのに病気」になって、すぐに体調を崩していた。

 

そもそも人が、毎日、何の問題がないわけはない。体調なんか悪くなるのは当たり前といえば当たり前だし、所詮、死ぬ時も人は、病気になる。

 

神経症者は、ありえない健康理想をかがげすぎて、事実を見失う。

 

ありのままの事実とは、釈迦の悟りのように、苦、諸行無常である。

 

いくら、主観的に気分が悪いと言っても、医師が異常がない、と言っても、ますます不安になるのが、不安、心配症であるが、私は、結局、死なかった。

 

私も、やたらと癌や脳卒中やら梗塞や、大病を「妄想」したが、いまは、それが、たんに変態というわけのわからない、人にも自分にも役にたたないクセだと気づいた。

 

苦しんでいる自分は立派と勘違いしていたが、れっきとした、変人でしかなかった、というオチである…

 

人は火を涼しく感じ、水を温かく思いたいというときに、そこに迷妄が生ずる

という節は興味深い。

 

というのも、人は金持ち、健康であるべき、家族は幸せでなければならない、と履き違えているが、むしろ、人生は困難が前提である。

 

苦がなく、健康や安定が当たり前とは「思想の矛盾」であるということだ。

 

たしかに、病気を治すための人生か? と問われたら違うだろう。

 

坂本龍一が、癌で死ぬかもしれないがコンサートをしたように、普通なら、病気でも、やりたい、やるべきことをやる。

 

神経症者は、病気でもないし死ぬ病気でもない意識にとらわれて、なにもしなかったりする。

 

人生は、「病気を治すための」人生だろうか? 私は、いまは違うと思う。